社会OS ── 人を消さないDXのための思考実験(2)

第2回|評価されない価値は、なぜ社会から消えていくのか

シリーズ説明
社会や現場が何に反応し、何を価値として返しているのか。DXやAIを「人を消さない方向」に使うために、価値の測り方そのものを問い直す思考実験の記録。



前回、私たちは「価値がないのではなく、測られていないだけだ」という視点に立ちました。

現場には確かに存在しているのに、評価も記録もされない行為がある。むしろ、それらこそが人や組織、社会を支えているにもかかわらず、いつの間にか周縁へと追いやられていく。

では、なぜそうなるのでしょうか。
それは偶然でも、誰かの怠慢でもありません。社会の構造そのものが、そうした価値を“消えやすく”設計しているからです。


価値が消えるのではなく、「反応されない」

ここで重要なのは、「価値が消える」という表現です。
実際には、多くの価値は消えていません。ただ、社会が反応しなくなっているのです。

売上や成長率には即座に反応する一方で、

・関係を修復する行為
・問題を未然に防ぐ配慮
・不安を引き受ける時間

といった行為には、ほとんど反応が返ってきません。

反応がない状態が続くと、人はどうするでしょうか。
多くの場合、「やらない」のではなく、「後回し」にします。

そして、その後回しが積み重なった結果として、
組織は疲弊し、関係は脆くなり、社会は息切れを起こします。


評価装置としての貨幣が、意味決定装置へ変わった

本来、貨幣は交換を円滑にするための道具でした。
しかし現代社会では、貨幣は次のような役割まで担うようになっています。

・何が正しいか
・何が成功か
・どの生き方が優れているか

つまり、貨幣は評価装置を超えて、意味決定装置へと転位しました。

この状態では、貨幣に翻訳できない行為は、
「意味がない」「後でいい」「個人の善意」として扱われやすくなります。

問題は、貨幣そのものではありません。
問題は、それが唯一の翻訳装置になってしまったことです。


構造的な問題が、個人の責任に回収される

評価されない価値が消えていく過程で、もう一つ重要な現象が起きます。
それは、構造的な問題が個人責任へと回収されることです。

燃え尽きは、努力不足。
孤立は、コミュニケーション能力の問題。
不安は、自己管理の未熟さ。

本来は、
社会の反応設計が生み出した問題であるにもかかわらず、
その原因は個人の内面へと押し戻されていきます。

こうして、公共への害は私事化され、
社会は自らの設計ミスを見失っていきます。


DXがこの構造を強化してしまうとき

DXやAIは、本来、人や社会の余白を増やすための手段です。

しかし、評価軸が変わらないまま導入されると、

・測れるものだけが加速する
・測れない行為はさらに見えなくなる
・判断は早くなるが、回復は遅れる

その結果、DXは効率化ではなく、
消耗の増幅装置として機能してしまうことがあります。

これは技術の失敗ではありません。
価値の測り方を更新しないまま使った結果です。


なぜ「分かっているのに変えられない」のか

多くの人は、すでに気づいています。

・このままでは続かない
・何かがズレている
・本当は別の価値があるはずだ

それでも変えられないのは、
新しい正解が見えないからではありません。

反応の仕組みが変わっていないからです。

人は、報酬や評価の設計に従って行動します。
意識や善意だけで、構造に抗うことはできません。


価値を消さないために必要なのは、否定ではない

ここで強調しておきたいのは、
この構造を変えるために、

・資本主義を否定する
・貨幣を排除する
・成長をやめる

必要はない、ということです。

必要なのは、
貨幣を唯一の価値尺度から降ろすこと

つまり、脱中心化です。


次回へ ── 設計の話に進む

では、どうすればよいのでしょうか。

評価されない価値を、
再び社会の中で“消えないもの”にするためには、
どんな設計が必要なのでしょうか。

次回は、
価値を数値ではなく「出来事」として扱うという発想から、
最小限の設計へと進みます。


読後のあなたへの問い

あなたの周りで、
「確かに必要なのに、反応されていない行為」は何でしょうか。

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