社会OS ── 人を消さないDXのための思考実験(3)

第3回|価値を数値にしない社会は、どう設計できるのか
シリーズ説明
社会や現場が何に反応し、何を価値として返しているのか。DXやAIを「人を消さない方向」に使うために、価値の測り方そのものを問い直す思考実験の記録。
第1回では、DXが進んでも息苦しさが消えない理由を「価値の測り方」という視点から捉え直しました。第2回では、評価されない価値が、社会の構造そのものによって消えていく仕組みを見ました。
ここまで来ると、自然に次の問いが立ち上がります。
では、どう設計し直せばいいのか。
今回はその問いに対して、壮大な制度論ではなく、最小単位の設計から考えてみます。
設計とは「正解を決めること」ではない
設計という言葉を聞くと、多くの人は「ルール」や「制度」を思い浮かべます。しかし、ここで扱いたい設計は少し違います。
それは、
・人が何に反応するか
・どんな行為が残りやすいか
・何が続き、何が消えていくか
を静かに方向づける構造のことです。
設計は命令ではありません。誘導でもありません。むしろ、選択の“重力”をどこに置くか、という話です。
数値化が持つ力と、その限界
数値には強い力があります。
・比較しやすい
・共有しやすい
・判断を速くする
だからこそ、数値化は多くの場面で有効です。
しかし同時に、数値は次のような副作用も持っています。
・数値にならない行為を切り捨てる
・過程より結果を優先させる
・短期的な反応を過剰に強める
問題は、数値そのものではありません。数値しか残らない設計にしてしまったことです。
価値を「出来事」として残すという発想
ここで提案したいのが、価値を数値ではなく、出来事として残すという考え方です。
成果や評価を記録するのではなく、
「何が起きたのか」
をそのまま残す。
たとえば、
・対立が激化しなかった
・誰かが途中で立ち去らなかった
・今日は続ける選択をした
これらは数値化しにくいですが、社会や組織にとっては決定的に重要な出来事です。
なぜ「1行」でいいのか
出来事を残すと聞くと、詳細な記録や説明が必要だと思われがちです。しかし、ここではあえて1行を提案します。
理由はシンプルです。
説明を始めた瞬間、出来事は評価に変わるからです。
1行は、意味づけを後回しにします。判断を保留します。その余白が、後から読み返したとき、別の理解を生み出します。
ロギングという、もう一つのDX
DXというと、効率化や自動化が前面に出がちです。しかし、もう一つのDXの使い道があります。
それは、消えてしまいがちな出来事を、消えない形で残すことです。
評価のためのスコアリングではなく、
存在を保つためのロギング。
この切り替えだけで、DXは人を削る道具から、人を支える補助線へと変わります。
小さく始める設計
ここで大切なのは、完璧を目指さないことです。
・新しい制度を作らない
・全体に展開しない
・成果を求めない
まずは、
「この場で、1行だけ残す」
それで十分です。
続くかどうか、呼吸できるかどうか。
設計は、その感触を確かめながら育てていくものです。
設計の主語を、現場に戻す
価値を数値にしない設計は、管理を弱めることではありません。
むしろ、
・何を大切にしたいのか
・どんな関係を守りたいのか
という問いを、現場に返すことです。
設計の主語を中央から現場へ。
それが「人を消さないDX」の核心です。
続── 実践と観察の話
ここまでで、設計の輪郭は見えてきました。
このあとは、 この設計を実際に置いたとき、
・何が起きたのか
・何が起きなかったのか
・どんな変化の兆しが現れたのか
という観察の話に進みます。
読後のあなたへの問い
あなたの場で、
「数値にしなくても残しておきたい出来事」は何でしょうか。

